片岡タイムズ

片岡タイムズ

GSL編集部、UPSETでの活動記録

【バスケットボールの教科書<2>戦略と戦術の核心】

【バスケットボールの教科書<2>戦略と戦術の核心】

※広告ではなく、読みたいので自分で買って、勝手に投稿してるだけです。

 

f:id:KataokaTimes:20170324161502j:plain

 

「バスケットボールの家庭教師」で知られる株式会社ERUTLUC代表である鈴木良和氏による全4部作の第2弾は「戦術と戦略の核心」について。偉そうにも、本書籍についても書評なんぞに挑戦。

 

この書籍は、様々な強豪チーム、著名なコーチから戦術を勉強するも、なかなか成果に繋がらずに頭を悩ませているコーチにとって特に意義がある書籍であるように感じた。「多くの指導者が勝利したチームからの成功の秘訣を知りたいという欲求」を持ちつつも、「その秘訣として取り上げられるものが戦術的な情報というのは、多くの指導者が勝利の要因として戦術に重きを置いている」と語る。そして、「成功したチームが使っていた戦術を使うことで、自分たちもチーム力が向上すると考えている」という分析の上で、そこに警鐘を鳴らす。「残念ながら戦術は単なる模倣では成果に繋がらない、それはチームによってあらゆる条件が異なるので戦略が異なり、戦略に基づいた戦術でなければ勝利の可能性を高めることは難しい」。それが理由だ。

 

 

戦術と戦略のミスマッチを解消するというだけではなく、戦略と戦術の立案方法に目を向けたのが本著の特徴。フェニックス・サンズが繰り出したラン&ガン、シカゴブルズ、レーカーズのトライアングルオフェンス、サンアントニオ・スパーズのボールムーブメントなど、レブロン・ジェームズとカイリー・アービングを起点としたキャブスのオフェンスシステム、ステフ・カリーの特徴を生かしたゴールデンステイト・ウォーリアーズのオフェンスシステムやフォーメーションプレーなど、バスケット界で注目を集める戦術についての説明は少ない。その代り、how(どのように)、そしてwhy(なぜ?)について多くの時間を割く事で、読者に思考ツールを与えようという試みがなされている。

 

 

まず、書籍は「バスケットボールというゲームの勝利の原則」の説明からスタートする。さらにいえば、ニュートン万有引力、コンパスが北を指す事をを引き合いに、「原則とは何か?」という説明が入るのが鈴木良和節か。「原則に逆らわないということは本質的な事であり、我々にとっては極めて重要なものなのです」

 

 

原則とは何かの章で強調して書かれている言葉であるが、本書を読む進めていくうえで、この言葉の真意や深さを読者は思い知らされることになるはずだ。

 

原則についての定義をしたうえで、バスケットボールを構成する様々な要素を取り出し、勝利の原則の説明へと移る。試合時間、24秒で移り変わる攻防権、3種類の得点(3Pシュート、2Pシュート、FT)など、多岐に渡る。その後、戦略、戦術の立案へ移行し、スペーシング、オフェンスの戦略、戦術、ディフェンスの戦略、戦術、リバウンドやファーストブレイクの考え方へと壮大なストーリーが流れていく。一つ一つを取り出していくのは困難なので、ここでは割愛。特にお勧めは、見開きの紙面で説明されているトピックス。P48戦略の出発点、P.82育成年代における戦術、P106オンボールディフェンスの成果と成長など。ここには、ゾーン禁止、マンツーマン推奨を「ルール」として導入したJBA側の意図や狙いを理解する一助にもなると感じた。

 

下記、極めて個人的な経験から。

 

以前、某大会の選手名鑑、チーム紹介などを担当させて頂く機会があった。自分の取材や、ある程度、各チームへのヒアリングシートなどをベースとして、観戦者の方へ、チームの狙い、コンセプト、目指すバスケットスタイルを伝える事で観戦の楽しさや、価値を高める事が冊子の目的。頂いた資料の多くのコメントの中に「チーム全員で守って、走って速攻を出したい」という言葉が並び、10数チームを担当する人間としては非常に困ったことがある。事実、バスケットボールでチームが勢いに乗るのは、守って、走って速攻である事は確か。そこを目指すのも分かるが、そこを目指す為の各チームの戦術は異なる。

 

仮にディフェンスリバウンドからの「走って速攻」を目指す中で、超巨大で、パスセンスに優れたリバウンダー(仮名:アブドル・ザ・ブッチャー)がいるチームであれば、「ウチのチームは、ちょっと高校生ぽくはないんだけど、ブッチャーがいるので、リバウンドは高い確率で取れちゃう。タフショットを打たせるか、無理なドライブをさせる事がアウトサイドの仕事で、あとは見切りで走ってしまう。ブッチャーからのロングパスでブレイクを狙いたい。変にリスクになるようならば、前線からのプレスはせずに、微妙な間合いで守る予定です」となるし、インサイド選手が不在のチームであれば「リバウンドがウィークポイント。なので、シュートされる前が勝負。

 

前線からのプレスやトラップディフェンスを増やし、その上でブレイクを狙いたい」と、「守って速攻」の中にも、各チームの色合いが異なる。戦略と戦術の立案方法に、何かしらの指標があれば、観戦する側も楽しめる。

 

例えば、青砥の居酒屋(九州の芋焼酎が絶品)での、本書の読了者であるコーチ同士の意見交換という名の飲み会があるとする。試合を見ると、全く異なる戦術を用いるコーチ同士。だが、その戦術を採用した理由や、着眼点、数字的なデータについて語り合うと、同じ嗜好性を持っていることが分かったりする。その立案方法や、選手の成長へのアプローチ方法が非常に似ていたり、そうであるがゆえの悩みも似通っていると、より深い部分でお互いの励ましあい、アイデアを出し合える。気が付けば、芋焼酎が進んでいるのも、フォーメーションやセットプレーについて話すよりも多くなるのではないか?(この見解に根拠は無い)。

 

最後に。

 

本書籍シリーズの特徴は、難しくなりがちな概念や理論を、極めて分かりやすい言葉で、かつ、読者が混乱しないように非常に巧みな構成で整理されている事。きっと、この書籍も「「より多くの子ども達になりうる最高の自分を目指す環境を提供する」「チームスポーツだからこそできることで教育に貢献する」「世界で最もビジョナリーなコーチチームを作る」というミッションを実現する方法の一つとして、世の中のコーチに約に立つ、さらに建設的な議論が進むような提言を意識して書かれていたのであろうと推察できる。

 

この後、書籍は後半の2冊へと続く。「チームマネジメント基礎」と「指導者の哲学と美学」。株式会社ERUTLUCで用いている「成功のピラミッド」をベースとし、それを織りなす各項目についての説明もあるようだ。各構成要素を、引力(選手にとってチームへの忠誠心を生み出したり、魅力となる事)と斥力(組織を運営、発展させていくために必要な規律など)とに分けた見解も非常に楽しみ。そして、第4弾の「美学」という言葉のチョイスが非常に秀逸。

 

 

ちょうど、WJBLのセミファイナル、シャンソン化粧品トヨタ自動車アンテロープスとの大熱戦で、丁 海鎰(チョン ヘイル)さんと、ドナルド・ベックさんの戦いぶりを見て「美学」を感じていただけに、到着が楽しみ。

 

 

鈴木良和さんのブログ
http://ameblo.jp/basketballtutor/entry-12252626668.html
おくぼ
https://okubo.jimdo.com/
※鈴木さんのお母様のお店です。
http://ameblo.jp/basketballtutor/entry-12087489473.html

※成功のピラミッド図(エルトラック版)は鈴木さんのブログより拝借しました。