片岡タイムズ

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GSL編集部、UPSETでの活動記録

「バスケットボールの教科書<4>指導者の哲学と美学」

【「バスケットボールの教科書<4>指導者の哲学と美学」】

※勝手な書評です。第4章は特に濃密で、とても整理しきれませんでした。

 

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『バスケットボールの教科書』シリーズも第4弾。起承転結の「結」を迎えた。サブタイトルは「指導者の哲学と美学」。ここまで、バスケ界の盲点や、見過ごされがちな部分に光を当てて、難しい現象に対して平易な言葉で丁寧に説明してきた中で、最後のテーマが「美学」で思わるのは、何処となく鈴木良和さんらしい。その理由は末尾に記載。

 

冒頭、ジョン・ウッデン氏の言葉の紹介でスタート。ウッデン氏の言葉を借りると、指導者は「聖なる任務」を与えられているという。その任務とは下記の3点。指導している選手の「人格を磨くこと」「建設的なものの考え方と価値観を教える事」「模範を示す事」。

 

 

それを踏まえ、著者は「指導者は選手たちの人生に触れている」と主張する。指導者の哲学や美学が、選手の人生に多大な影響を与える。「より多くの子ども達になりうる最高の自分を目指す環境を提供する」をミッションの一つとして活動するERUTLUCの代表者としても、自身が重要だと信じ、かつ、指導者が知っておくべき、哲学や科学的なデータについて、第3巻と同様、チームマネジメントのピラミッドを中心として、全146項目で語られている。

 

 

「環境」の項目では、欧州の育成環境の分析が紹介される。例えば、欧州では、年代別のチームがあり、各チームの構成人数も決まっている(12名程度)ケースも多いらしい。コーチの指導が行き届き、チーム内での競争も分かりやすい。意欲があり、熟達した選手はより高いレベルへプレー環境を変更できる仕組みがあり、高いレベルの選手同士で日常の中で切磋琢磨が可能となる。日頃の練習から、サイズや能力に任せたプレーだけではなく、より高い技術が必要となる。そうであるから、様々な技術習得が必要となる。トーナメント戦ではなく、リーグ戦を中心としたゲームスケジュールであるので、コーチも様々な戦術や選手の可能性を試しやすい。

 

 

さらに若い世代では、点数制ではなく、セット制で試合が行われている地域があるケースも紹介される。アメリカ、欧州(スペインなど)と、日本の育成環境の違いを事象として知るだけではなく、その仕組みが、コーチに与える影響、ひいては、選手に与える影響が説明される。著者は、物事の説明に「力学」という言葉を用いるが、環境や仕組みが選手に与える影響を考える際、力学という視点は非常に分かりやすい。

 

 

「意欲」の項目では、ビジネス書や心理学での理論をバスケットに落とし込んだ内容が紹介される。一例。『喜びの現象学』という著書のあるチクセントミハイ博士の提唱するフロー理論。本人の能力と課題がマッチしている際に、人間は能力を発揮するという理論である。前述の、レベルの高い選手同士が集まるスペインの育成環境との比較で考えると分かりやすいし、国民的漫画『スラムダンク』で「お前らなんか退屈」と中学校の先輩と揉めた沢北のエピソードを思い出した。(先輩にとっては、自分たちの能力やコントロールを越えた沢北の存在が、彼らにとっては不快で脅威であり、憎悪の対象であったのだ、、と勝手な分析をする視点を与えてくれる)。

 

ZPD(最近接発達領域)という単語など、聞いたことすらなかった。「自分がいまはクリアできないが、あと少し、何かきっかけがあればクリアできるという領域」の事らしい。指導者は、こういう課題を選手に与える事が重要だ、と。成程。明日から、この最近接発達領域という単語を使って、賢さのアピールをする事も可能だ。

 

 

そして、ここでも「力学」が登場だ。選手が、指導者の言う事を聞いているとする。だが、それは、指導者が選抜や評価という権限を持っているが故の「全受容のふり」ではないか、と指摘。これは耳が痛いし、自分も教わる側の時に、十二分に覚えがある。本音と建前が混在する日本社会で、これをしなかった選手がいるだろうか、とさえ思う(笑)。そういうケースがあるという事を知っているだけでも、指導する側にとっては落とし穴を防ぐ術になる。

 

 

「卓越性」の項目。勿論、卓越した存在になろう!オンリーワンになろう!という精神論では無い。卓越性とは何か、その見極め方の提案からスタートする。曰く、ナンバーワンになれるもの、成果や勝利に直結するもの、選手がやっていてワクワクするもの。

 

この3つを満たすものが卓越性へと繋がるらしい。これは、チームスタイルでも、選手個々の卓越性の見つけ方でも参考になる、勿論、指導者も同様だ。『ミッション』の著書などで知られる岩田松雄氏は、ミッションの見つけ方として3つの円の重なる部分を提唱している。好きなこと(継続して取り組むことが出来る、ワクワクしながら活動できる)、得意なこと(自分の特性を生かすことが出来る)、何か人のためになること(社会に価値を提供し、報酬や対価を得ることが出来る)の、3つの円が重なる領域の活動が、一人一人のミッションに成り得るという考え方である。

 

 

バスケットの領域で「卓越性」を意識して、成功体験、失敗体験を積んだ選手は、その経験をベースに、人生のミッションを見つける思考体験を常に積んでいるのかもしれない。

 

そして、「偉大」の項目である。チームマネジメントのピラミッドは、最下段の理念、環境、信頼、責任、規律、2段目の分析、戦術、技能、コンディション、3段目の戦略、意欲、価値観、4段目の卓越性、相乗効果の積み上げにより、最後に「偉大」へと至るピラミッドである。最後の項目では「偉大さ」を生み出す指導者の資質や、偉大さを導く考え方、必要条件が説明される。

 

これまでの書籍の中で、偉大な組織を作るためには、理念と行動が合致していなければならない事が語られた。著書の中では「一つの言葉、一つの行動に、その理念が反映されている。裏を返せば、その一つの言葉、一つの行動から、理念や価値観が透けて見えてしまう」と語られる。その中で、鈴木氏の美学が紹介されて書籍は巻末へと向かう。

 

ERUTLUCでは、指導した選手を宣伝に使わないという美学があるらしい。県の代表選手に選ばれた、日本代表に選ばれた!などの宣伝をしないことを美学としているらしい。理由は、鈴木氏が考えるコーチの定義や、目指す選手像が色濃く反映されている。このような美学から、私のような外部の人間でも、確かに理念や価値観の反映を感じることが出来た。中途半端に書いてしまって誤解を招いてしまっても恐縮なので、気になる方は書籍へ。

 

美学。自分は確固たる理念や考え方があるけど、人には人の価値観があるので、勿論、それを否定する事はしない。でも、自分は、このように考えている。本を読んでいると、温厚そうな鈴木さんの中にあっても、拘り(固執ではない)や強い意思が垣間見える。そういう領域を、さらりと、美学という言葉の中に収めているようでもある。確かに、美学という言葉が収まりが良さそうだ。うーん。

書籍の中で紹介されていたり、引用されていた書籍や理論。単体で見聞きすると、理解できる範疇を越えてしまいそうな理論も、バスケットボールの事例に置き換えて説明をして下さるので、私のような鈍才でも理解しやすい。人生を豊かにしてくれそうな考え方が沢山。

 

・「マズロー欲求5段階説」
・「フロー理論(チクセントミハイ博士)」
・「ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則」
・「ビジョナリー・カンパニー飛躍の法則」
・「ビジョナリーカンパニー3 衰退の五段階」
・「ビジョナリーカンパニー4 自分の意志で偉大になる」
・「タイムクエストTQ-心の安らぎを得る究極のタイムマネジメント
・「イノベーション起業家精神」PFドラッカー

 

<参考>

鈴木良和さんのブログ
http://ameblo.jp/basketballtutor/entry-12252626668.html

おくぼ(東京都葛飾区青戸3丁目33−6)
https://okubo.jimdo.com/

※鈴木さんのお母様のお店です。
http://ameblo.jp/basketballtutor/entry-12087489473.html