片岡タイムズ

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GSL編集部、UPSETでの活動記録

“Better Athletes, Better People” スポーツコーチング・イニシアチブによるポジティブ・コーチング・アライアンス(PCA) ワークショップレポート<その2>

【“Better Athletes, Better People” スポーツコーチング・イニシアチブによるポジティブ・コーチング・アライアンス(PCA)
ワークショップレポート<その2>】

 

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以前に投稿をした、スポーツコーチング・イニシアチブ主催のPCA(Positive Coaching Alliance)ワークショップについて、2月10日(金)に原宿if spaceで行われた講義内容の要点を軸に、簡潔に説明を試みたい。

 

■「ユーススポーツを変革せよ、さすればスポーツは若者の変革をもたらす」

 

PCAは「ユーススポーツを変革せよ、さすればスポーツは若者の変革をもたらす」をミッションとする団体である。“Better Athletes, Better People”がスローガンである事は前回の投稿のとおり。

 

◇スポーツの特性は「瞬時に思考-行動の切り替えを要求する状況の繰り返し」

この日のワークショップで講師を務めたTony Asaro、そして、小冊子『ダブル・ゴール・コーチングの持つパワー』によると、彼らは、少年・少女のスポール体験を非常に価値のある、人生の中で貴重な経験を詰める場であると信じていることが分かる。スポーツの特性を「瞬時に思考-行動の切り替えを要求する状況の繰り返し」と分析し、そうであるから、人間の成長を促す素晴しい機会と捉えているからだ。

 

だが、彼らが参考にした研究結果の一つには、ユーススポーツをする人の70%が、13歳までに完全にやめてしまうデータがあった。PCAにとっては、それは由々しき事態であり、本来であれば素晴らしい体験や経験をもたらすはずのスポーツ体験が、必ずしも、選手にとって幸せな空間ではないことに問題意識を持っている。

 

◇怒鳴り屋のコーチや、際限なくネガティブな姿勢を表に出すコーチのやり方が世の中に受け入れられ、正当化され、称賛を集める事は良い事なのか?

 

例えば、勝利を追求するという名目のもと、怒鳴り屋のコーチや、際限なくネガティブな姿勢を表に出すコーチのやり方が世の中に受け入れられ、正当化され、称賛を集める事すらある。また、悪気はないものの、本来の目的に反するやり方で若い選手と接してしまい、選手は萎縮をし、やがて競技を嫌いになり、スポーツから離れてしまうケースも発生している。

 

◇「勝つ事」と「良い人間になる事」の両立を目指す。「たった今、目の前で起きていることに集中できない」「今、取り組んでいることから心と頭が離れてしまう」ネガティブな状況を作り出さない

 

それを解消しようと、PCAが推奨するのが「「勝つ事」と「良い人間になる事」の両立を目指し、選手を導く「ダブル・ゴール・コーチ」である。その結果、スポーツを通じて、ポジティブな人間性を育むことが出来ると語る。PCAの指すポジティブな態度とは、「より多く、より早く学習する」「より良い決断ができる」「逆境に強くなる」「常に前進する」という特性を持った人間であり、「それこそがアスリート(スポーツに打ち込んできた人間)の最大の魅力」を意味する事も触れておきたい。
(ちなみに、ネガティブさを「たった今、目の前で起きていることに集中できない。」「今、取り組んでいることから、心と頭が離れてしまう。」と位置づけ、文字通り、ポジティブの対義語としている)

 

 

◇“Better Athletes, Better People” PCA哲学を実現する3つのキーワード

 

「ダブル・ゴール・コーチ」を実現する為にはを3つのキーワードが重要となる。ワークショップでは、その内容についても、時折に参加者同士のディスカッションや質疑応答を交え、インタラクティブな中で進められた。『The ELM Tree of Mastery(熟達達成の為のELMツリー)』、『The Emotional Tank(感情タンクを満たす)』、『Honoring the Game(試合への敬意)』の3ワードが、それである。

 

The ELM Tree of Mastery(熟達達成の為のELMツリー)のELMとは、Efforts, Learning, bouncing back from Mistakesの頭文字。それぞれ、努力、学習、ミスから立ち直る強さ、を意味する。他人の状況や、環境に左右される「結果の目標」ではなく、「行動の目標」に焦点を合わせる事である。バスケットボールの世界でいうと、サンアントニオ・スパーズのGregg Popovichが提唱するパウンディング・ザ・ロック(Pounding the Rock)。の哲学に近い部分もあるかもしれない。

 

『The Emotional Tank(感情タンクを満たす)』とは、選手の精神状態やエネルギーレベルに留意し、それが高まることを支援するための考え方や行動をコーチが取るための指針である。批判や称賛の手法や、必ず守るべき原則、コーチが省みるべき言動のリストが紹介される。その中の一つに「許可を求める」という哲学がある。これは、選手に批判や提言をするときに、「もしかしたら、君の成長を促すかもしれないアイデアがあるのだけど、話をしても良いかい?」と選択の余地を与える事。頭ごなしではなく、選手の立場を尊重していることを示すためにコーチに必要な礼儀である、という考え方だ。

 

また、称賛と批判にも適切な割合があるらしい。シカゴ・ブルズで初期3連覇を成し遂げた主要メンバーの一人であり、B.LEAGUE開幕戦でも来日をしたホーレス・グラントとフィル・ジャクソンの関係に詳しい。これについては次回で紹介する。

 

最後は『Honoring the Game(試合への敬意)』である。ROOTSという単語に哲学が凝縮されているが、それぞれ、Rules(規則・ルール)、Opponents(対戦相手),Officials(オフィシャル),Teammates(チームメイト),Self(自己)の頭文字。この5項目を尊重することで、試合への敬意を表す。そして、それこそが選手自身を成長させる近道である。特に、Opponents(対戦相手)には「対戦相手は、自分たちがより良くなる為のギフトだ(A worthy opponent is a gift.)」という考えが込められている。非常にスポーツマンシップに溢れる考え方だと感じた。※2

ここでは、簡単な説明に留める。より詳しく知りたい方は、冒頭に記載した小冊子『ダブル・ゴール・コーチングの持つパワー』に詳しい。

 

以上が、「「勝つ事」と「良い人間になる事」の両立を目指し、選手を導く「ダブル・ゴール・コーチ」の基礎的な哲学である。次回は、GSLでも関連の深い『イレブンリングス』より、3つのキーワードに関する内容の具体例を紹介していく予定。

 

『ダブル・ゴール・コーチングの持つパワー』の購入ページはこちら。
http://sports-coach.jp/2016/10/09/products_dcg/

 

 

<参考>

※1
Pounding the Rock

“When nothing seems to help, I go look at a stonecutter hammering away at his rock, perhaps a hundred times without as much as a crack showing in it. Yet at the hundred and first blow it will split in two, and I know it was not that blow that did it, but all that had gone before.”

「救いがないと感じたとき、私は石切工が岩石を叩くのを見に行く。おそらく100回叩いても亀裂さえできないだろう。しかしそれでも100と1回目で真っ二つに割れることもある。私は知っている。その最後の一打により岩石は割れたのではなく、それ以前に叩いたすべてによることを。」

 

※2

スポーツマンシップ

 

Celebrate Humanity Campaign 2001
by International Olympic Committee

You are adversary,but you are not my enemy
Foy your resistance gives me strength
Your will gives me courage
Your sprit ennobles me

And though I aim to defeat you,should I succeed,
I will not humiliate you.

Instead I will honour you,
For without you,I am a lesser man.

あなたは私の対戦相手、でも決して敵ではない
あなたの抵抗が、私を強くしてくれるから
あなたの決意が、私に力をくれるから
あなたの精神が私を高めてくれるから

あなたを倒す事、それが私の目標だけど、
たとえその目標を達成しても
あなたの誇りを決して傷つけたりしない

それどころか、あなたを心から尊敬するだろう
あなたがいなければ、私はちっぽけな人間に過ぎないのだから。

(『「尊重」と「覚悟」を学ぶスポーツマンシップ立国論』著:広瀬一郎より)

 

 

スポーツコーチング・イニシアチブHP
http://sports-coach.jp/about_pca/
ポジティブ・コーチング・アライアンス(PCA)
日本初開催ワークショップ 活動報告(2017年2月10日~14日)記事(同団体内)
http://sports-coach.jp/pca-workshop2017_report/

ハラスメント、暴言、そして体罰のないスポーツ教育の普及をめざすスポーツコーチング・イニシアチブ 小林忠弘さんインタビュー記事(世の中を変える(かもしれない)想いとアクションに出会えるWebメディア 70seedsより)
https://www.70seeds.jp/coaching_197/

GSL内 PCAレポート<その1>
https://www.facebook.com/GoldStandardLab/posts/1396292853727529

(レポート:ゴールドスタンダード・ラボ 特別研究員/株式会社アップセット 片岡秀一)