片岡タイムズ

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GSL編集部、UPSETでの活動記録

【“Better Athletes, Better People” スポーツコーチング・イニシアチブによるポジティブ・コーチング・アライアンス(PCA) ワークショップレポート<その3>】】 前回の投稿では、PCA(Positive Coaching Alliance)のミッションや、課題認識、それに対してのアプローチ方法、それを実現する為に彼らが提唱しているコーチング哲学の全体像を紹介した。 今回では具体例と共に紹介する。PCAのNational Spokesperson でもあるフィル・ジャクソン氏が

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前回の投稿では、PCA(Positive Coaching Alliance)のミッションや、課題認識、それに対してのアプローチ方法、それを実現する為に彼らが提唱しているコーチング哲学の全体像を紹介した。

 

今回では具体例と共に紹介する。PCAのNational Spokesperson でもあるフィル・ジャクソン氏が、PCAの書籍『The Power of Double-Goal Coaching』(『ダブル・ゴール・コーチングの持つパワー』:スポーツコーチングイチシアチブ内で販売中)に寄せた序文と、著書『イレブンリングス』(翻訳:佐良土茂樹※GSL研究員)より。バスケットのエピソードと絡める事で、読者の方が何かしらの発見が出れば嬉しい限り。

 

改めて、前回の内容を箇条書きで紹介した上で、下部に該当箇所を引用した。

 

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<Positive Coaching Allianceについて>
※あくまでも講演や、書籍からの簡単な整理です。

 

◇目的・ミッション・スローガン
・「ユーススポーツを変革せよ、さすればスポーツは若者の変革をもたらす」
・Better Athletes, Better People”

 

◇認識している問題

・ユーススポーツをする人の70%が、13歳までに完全にやめてしまうデータがある。スポーツは、本来であれば素晴らしい体験や経験をもたらすはずのスポーツ体験が、必ずしも、選手にとって幸せな空間ではない事を示唆するのではないか。

 

・勝利を追求するという名目のもと、怒鳴り屋のコーチや、際限なくネガティブな姿勢を表に出すコーチのやり方が世の中に受け入れられ、正当化され、称賛を集める事がある。

・悪気はないものの、本来の目的に反するやり方で若い選手と接してしまい、選手は萎縮をし、やがて競技を嫌いになり、スポーツから離れてしまうケースも発生している

・スポーツは「瞬時に思考-行動の切り替えを要求する状況の繰り返し」という特性も持つ。純粋な楽しさを享受すると同時に、人間の成長を促す素晴しい機会と捉えているとPCAは信じているが、上記のような事例があまりにも多いと思える。

 

◇PCAのアプローチ

・選手が「勝つ事」と「良い人間になる事」の両立を実現させられる指導方法や哲学の提唱
(=“Better Athletes, Better People”)

・スポーツを通じて前向きな態度を持つ能力を育んだ選手は、社会生活の中でも「より多く、より早く学習する」「より良い決断ができる」「逆境に強くなる」「常に前進する」という特徴を持った人間になれる。それこそがアスリート(スポーツに打ち込んできた人間)の最大の魅力。

※反対に、ネガティブな態度や考え方が染みついている人は「たった今、目の前で起きていることに集中できない」「今、取り組んでいることから心と頭が離れてしまう」という事が多い。

・3つのキーワードがPCAの基礎。『The ELM Tree of Mastery(熟達達成の為のELMツリー)』・『The Emotional Tank(感情タンクを満たす)』・『Honoring the Game(試合への敬意)』

 

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ここでは、『Honoring the Game(試合への敬意)』のROOTSのケースでフィル・ジャクソンの考えを紹介したい。「The Power of Double-Goal Coaching」(邦題『ダブル・ゴール・コーチングの持つパワー』の序文では、「この書籍はコーチにとって、競技性の高いスポーツに道徳的な面で優れた手段を用いつつも、選手たちからより良い結果を引き出す為に非常に実用的な書籍であるといえます。コーチたちがこうしたポジティブな形でのモチベーションを日常的に持ち続けると、チームのやる気は上がり、貪欲な選手が増えることが分かっています。」という前提の上で、下記のような言葉を寄せている。

 

フィル・ジャクソンの考える「「Honoring the Game」(試合を尊重する)」。シカゴ・ブルズでの活用例

 

 

具体的には、私たちのコーチ、親、そして選手たちはジムが提唱する「Honoring the Game」(試合を尊重する)為に必要な「ROOTS」の考え方を身につけなければなりません。

 

ROOTSとはすなわち、"Respect for the Rules", "Opponents", "Officials", "Teammates", そして "Self" のことです。そしてこの試合を尊重することは如何なるレベルのスポーツでも必要なことです。

私はこの相手を誇りに思うコンセプトが有効であると実感できた個人的な経験があります。1990年、私のChicago BullsはDetroit Pistons に3試合連続で敗北を喫していました。私たちはEastern Conference のプレイオフ試合で第一、第二、そして最終ラウンドまで負け続けました。

 

こういった状況で感じる虚しさのなかでは、Pistons "Bad Boys" に対して嫌悪感を抱く事は容易でした。

毎年、目に余るファウルやベンチを一掃するほどの取っ組み合いなどの衝突が起こり、結果として当時我々のチームで若きスター選手だった Scottie Pippen選手の脳震盪につながりました。

これによって、私たちは相手チームへ純粋な怒りを覚えましたが、これにより本能的に私たちのチームは一丸となり機能することができるようになったのです。

私はDakotas の Lakota から学んだいくつかの事を使ったのです。
彼らには宿敵がCrowに居たのですが、彼らはそれを尊重し誇りに思うようにしていたのです。これは彼らがそれと戦う事は、勇敢さと狡猾さとチームワークを必要とさせるからでした。
私はその考え方を使ってみたのです。
その衝突は互いの強みを最大限引き出しました。

すなわち、Pistonsの様な身体的に強い相手との競争の中では、苛立ちや怒りを覚え虚しさに足掻くよりも、団結力ややる気、そして忍耐力とチームワークをもって相手と対峙することにしたのです。
私たちはPistonsの競争力を誇りに思い(称え)、それを自分たちにとって良いように作用させることができ、NBA王者に六度輝くことができました。

(引用終わり)

 

また、『イレブン・リングス』の中では、同じ時期の出来事を下記のように表現しています。

 

ラコタ族の考え

 

シーズンが進んでいくに従って、私はゆっくりとラコタ族の習慣をチームに紹介し始めた。そのいくつかは非常に些細なものだった。毎回の練習の初めに、チームの中核ーー選手たちとコーチ、トレーニングスタッフーーーをコートのセンターサークルに集め、その日のチームの課題についてディスカッションをする。そして、私たちは同じように練習を終える。

 

ラコタの戦士たちは、いつも円の隊形で集まる。なぜなら、縁は宇宙の根源的な調和のシンボルだからである。ラコタ族の有名な賢者であるブラック・エルクは、それをこう説明している。

 

「自然の力が織りなすすべては、縁という構造の中にある。大空は丸く、大地もまたボールのように丸いものだと聞いている。そして、星々も、、、・。太陽は、縁の運動の中で現れ、沈んでいく。月もまた同じように動き、どちらも円を描く。季節でさえも、移り変わり、またいつも元の場所へ戻ってくるという巨大な縁を形成している。人間の一生は、子供時代から子供時代まで円を描いており、このように、それは力を及ぶすべてに言えるのだ」

 

ラコタにとっては、敵も含めて、あらゆるモノが聖なる存在である。なぜなら、生きとし生ける全ては、根源的に繋がっていると信じているからだ。それがラコタが他の部族を征服しようとしない理由だ。彼らは敵を棒でつついて回数を競う(カウンティング・グウ)馬を盗む襲撃に参加する、捉われた仲間を救出するというような、勇敢な行動をすることにより強い関心を持っている。ラコタにとって、戦いに参加することは、ゲームに興じるように喜びに満ちた経験なのである。もちろん、掛け金は段違いに高いゲームであるが。

 

(中略)

 

私たちは、何もかにも賛同したわけではない。しかし、私たちは高いレベルでの信頼を作り上げ、プレイヤーたちを売れ入れて欲しいと思っているチームワークを定義する事に専念した。

 

いうまでもなく、コーチという職業は、多くのコントロール願望持ちたちを引き付ける。彼らは、あらゆる人間に自分が群れのボスであることを常に意識させる。私自身も御多分に漏れる、そういう人間だと思われてきた。しかし、私が数年かけて学んだことは、最もコカ的なアプローチは可能な限り権限を委譲する事であり、同様に他のすべてのプレイヤーにリーダーシップの技術を身に着けさせることである。それが出来た時、チームの結束と、他の選手の成長を生み出すことが出来るだけではなく、逆説的だが、私自身のリーダーとしての役割も強めてくれるのだ。

 

(引用終わり)

 

次回は、『The ELM Tree of Mastery(熟達達成の為のELMツリー)』について、フィル・ジャクソンとホーレス・グラントのエピソードを紹介します。

 

 

(レポート:ゴールドスタンダード・ラボ 編集部・研究員/株式会社アップセット 片岡秀一)

 

<参考>

スポーツコーチング・イニシアチブHP
http://sports-coach.jp/about_pca/

ポジティブ・コーチング・アライアンス(PCA)
日本初開催ワークショップ 活動報告(2017年2月10日~14日)記事(同団体内)
http://sports-coach.jp/pca-workshop2017_report/

『ダブル・ゴール・コーチングの持つパワー』の購入ページはこちら。
http://sports-coach.jp/2016/10/09/products_dcg/

ハラスメント、暴言、そして体罰のないスポーツ教育の普及をめざすスポーツコーチング・イニシアチブ 小林 忠広 (Tadahiro Kobayashi)さんインタビュー記事(世の中を変える(かもしれない)想いとアクションに出会えるWebメディア 70seedsより)
https://www.70seeds.jp/coaching_197/

フィル・ジャクソン氏とPCAのエピソードは下記特集サイトでも詳しい(会員限定、無料登録可能)

スポーツ指導は「少しほめ過ぎ」ぐらいがちょうどいい理由
若者スポーツのコーチ法を覆した社会起業家のメソッド「PCA」とは(日経ビジネス
著:渡邊 奈々さん
http://business.nikkeibp.co.jp/art…/report/20150327/279259/…

GSL内 PCAレポート<その1>
https://www.facebook.com/GoldStandardLab/posts/1396292853727529

GSL内 PCAレポート<その2>
https://www.facebook.com/GoldStandardLab/posts/1406993669324114

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